善良な人の中には、裁判官が真実を発見して自分のぬれぎぬをはらしてくれる、と信じている人もいるかも知れません。そういう場合もあるでしょう。それを信じて、取り調べ段階では嘘の自白をしてしまう、ということも多いようです。
昨日のブログでは、TVドラマ『HERO』が面白い、と書きました。検事役のキムタクが、自分の足で徹底的に捜査をして、真実を発見するのです。捜査の必要があれば、平気で逮捕勾留する。検察権力をコミカルに描いているところも、面白く感じる一つの理由です。
警察や検察での取り調べには弁護士に立会ってもらってアドバイスをもらえる権利がある、と信じている善良な国民も多いのではないでしょうか。映画『それでも僕はやってない』を見た方は、まったくそのような権利がないことをご存じでしょうけれども。(注)
さて、この本は、上場会社キャッツの粉飾決算に荷担した、として有罪判決をうけた公認会計士の著書です。
『公認会計士 vs 特捜検察』
著者:細野祐二
p11
「細野祐二ですね。これからあなたをキャッツの株価操縦事件の被疑者として取り調べる。参考人ではないので、あなたには黙秘権がある。しかし行使するな。黙秘権を行使することは、あなたのためにならない」
p12
「今日ここで取り調べを行うが、ここでの話は一切外に漏らしてはならない。ここでのことは誰にも言うな。弁護士に対してもだ。」
上記は著者自身が、検察庁での取り調べに際して、検察官から言われたセリフだと記されています。つまり、黙秘権も弁護人選任権も、「行使するな」と言われたということです。それでも、著者は、真実のみを述べ続けます
この本の主人公、公認会計士である著者が司法に抱いていた常識が、どのように彼を苦しめることになるか。
(注) 取り調べをビデオ撮影することを、「取り調べの可視化」と呼んでいます。日本でも韓国にならって、つい先頃から試験的に行われ始めました。
ネタバレします。小説としてお読みになりたい方は、以下を読まないで下さい。ここから、Amazonで、本を注文できます。
真実とは異なる、検察による捏造を、「自白」しなければ逮捕するぞ、と脅され続ける。裁判官が逮捕状を出すはずがないと勘違いして、本当に逮捕されてしまう。そして、検察の権力の強大さを実感しつつ、勾留という自由を奪われた状況で、嘘の「自白」をしてしまう。
著者のクライアント達は、そのようにして、嘘の自白をします。
早く起訴してもらって、はやく釈放してもらいたいからでしょう。クライアント達は、裁判所でも嘘の自白をして有罪・執行猶予判決をもらいます。
その後も、著者だけが無罪を戦い続けます。著者は、有罪判決に控訴している高裁で、クライアント達の証言をしてもらうことが出来ました。クライアント達は著者が控訴している高裁で、クライアント自身の刑事裁判での自白を撤回します。
P426
そのような恐怖の中で、彼らは偽証罪の恐怖を乗り越えて、真実を証言したのである。大友は、「このままこれを見過ごすことは、人間としてあってはならない」
と証言し、村上は、
「あの世で謝るより、今生きているこの世で謝りたい」
と証言した。西内は、
「いても立ってもいられない。何とか自分としてもきちんとした態度をとろう」
と思ったと証言した。いずれも検察官の圧力に屈し、自分の心を偽った人間としての悔しさと、やっと真実を語れたという安堵を示している。裁判所は、この人間の極限状態にまで追い詰められた真実の声をどう聞くつもりか。この裁判が、平成21年5月以降に導入を予定されている裁判員制度で裁かれていたらどうであったかと思わざるを得ない。裁判官は、市民の常識とは相容れない「プロ感覚の司法判断」なるものを下すべきでない。
この本はもう一つ、『司法取引』についても考えさせられます。
クライアント達の嘘の自白調書が、著者の刑事裁判でも重視され、著者に対する有罪判決を形成してゆきます。著者だけが自白をしない、つまり反省をしていない被告となったわけです。
司法取引が法律上認められていないので、共犯者だって検察官との取引のために嘘の自白供述をするはずがない。裁判官の思考回路では、そう考えるのです、たぶん。正面から司法取引を認めているアメリカだと、どうなんでしょう?
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